「想像を超える創造」de'plas

COLUMN − コラム −

− 店舗デザイン − 福岡・清川にあるライブハウスUTERO様について

【閑静な住宅街と店舗街をつなぐ新たな価値の創造】

 

 

utero1「UTERO」は福岡市の清川にあるライブハウスである。現在この地域は閑静な住宅街と、にぎやかな店舗街が絶妙なエリア区画によってバランスを保っている地域である。

 

現在決して人が多く集っている地域ではないが、スタイリッシュ店舗と老舗、高層マンションと古民家など、最新のデザイン空間と古きよき町並みが混在しており、老若男女問わず好んで滞在する名スポットである。

 

 

オーナーは、この店舗街と住宅街の中間地点に、誰も予測することが無かったと思われるライブハウスの新装という突拍子もない計画を打ち立てた。要望としては、3階建ての老朽化した雑居ビルをリノベーションし、ライブハウスとBarとレコーディングスタジオという3業態を同時に営業したいとのこと。また、向かいの道路を挟んでマンション、両隣は旅館と飲食店という環境の中、防音対策に関して最良の工法での工事を行い、近隣の方々に極力迷惑をかけないようにすること。そして3業態を同時に可動させるための動線計画であった。

 

 

utero2担当デザイナーのコンセプトは、各フロアと部屋ごとの防音設計と防振設計をしっかり行い、かつ外部にも音が漏れないような構造とすることであった。また意匠に関しては、非常に盛り上がれる雰囲気ではあるが、どこか高級で品があるような空間造りとした。

防音計画に関しては、外壁の内側に3重の壁を建て、構造は中空の空気層を設けた壁に、グラスウールという防音材を敷き詰めた壁でサンドする工法とし、仕上げ材のボードには穴空きの吸音ボードを使用する防音壁とした。

 

また、防振計画として、壁と壁の間に防振ゴムのシートも貼っている。外壁にはリブ状のガルバニウム鋼板を増し貼りし、外部に関しての防音性も高め、デザイン面でもスタイリッシュなファサードとした。

 

天井に関しては2重天井とし、空気層と防音材を敷き詰め、仕上げはPB(プラスター)ボードの2重貼りとした。天井に関しても防振対策として防振ゴムのシートをPBボードの間に挟み込んでいる。

 

床に関しては、ライブハウスのステージを防音用に床上げし、防振対策としては、防振ゴムシートの施工と、あえてステージと壁面にわずかな隙間を設け、振動が壁を伝って行かないように工夫した。また、レコーディングスタジオに関しても同様に床上げし、同フロアに3部屋あるため、大まかなイメージとしては、大きな箱の中に中空の小さな箱が3つあるようなイメージの構造とした。

 

扉に関しては区画ごとに防音扉を配置し、さらに個別の部屋に入る際には防音用の2重扉としている。音漏れの一つの要因として、空調機等のダクトという配管を通して、外部に音が漏れるというケースもあるため、1Fのライブハウススペースのダクトは直接外部に出さず、あえて蛇行してダクトを配管し、さらに2階まで立ち上げて排気する計画とした。

 

utero3意匠・動線に関しては、まず入口から2階のBarに直接階段を登って入場する。2階までのアプローチを取り、2階のBarを経由して、1Fのライブハウスに降りていくことで、最も大きな音が出る場所と入口との間に距離ができ、動線的にも防音効果がある計画とした。アプローチに関しては、来客者がただつらい階段を登り降りしていると思わせないように、床・壁・天井にデザイン性の高い仕上げを施し、随所に電照サインやシートサイン、そしてポスターや広告物を展示し、ワクワク楽しみながら歩いていけるような意匠とした。

 

2階のBarは、落ち着いたシックな空間となっており、1階のライブハウスからわずかに鳴り響く音が、心地良いBGMとして空間を演出している。また、壁面には巨大なスクリーンがあり、そこには1階のライブハウスでの状況がタイムリーに映し出されているので、その様子を眺めながらお酒を楽しむことも出来る。

 

1階のライブハウスは、最大130名まで収容可能であり、演奏者は観客と動線が重複すること無く、楽屋から直接ステージに入場することが出来る。また観客スペースの後方には、床が1段上がったミキシング・DJブースがあり、常にライブや観客の状況を見渡すことが出来る。

 

utero4意匠に関しては、全体的に空間を黒ベースで統一し、ステージ後方の壁面にアクセントとしてワインレッドの緞帳(どんちょう)を設けた。ライブハウスの雰囲気や彩りは、演者や観客がその時々のシーンにあった飾り付けや格好で空間を創造していくことが望ましいと考え、あえてシンプルなデザインとした。

この地域に、ライブハウスという新たなスパイスを投入し、清川に新たな価値を生み出そうとしている「UTERO」のチャレンジとますますの繁栄を一ファンとして、応援しつづけて行きたいと思う。