「想像を超える創造」de'plas

COLUMN − コラム −

− 店舗デザイン − 「飯処 角と」について

今回は2012年8月に弊社が設計・施工をさせていただいた「飯処 角と」について書かせて頂くことにした。

 

店主である角戸氏が店を構えたのは、中央区渡辺通り3丁目である。この場所は、多くの人々に周知されそうだと思われがちだが、実際は渡辺通北に新しくできた道から入り、少し奥まった人通りの少ない路地裏である。

 

当初この場所で、お店の情報が福岡の皆様に、本当にいき届くのかと不安に感じた部分があったが、角戸氏からは自分のつくる料理に絶対的な自信があるように感じとれた。角戸氏からのお店にかける熱い情熱と覚悟が強く伝わり、弊社としてはこの場所で最高の料理に見合うような最高の空間づくりに尽力することにした。

 

 

お店のデザインイメージは「格式が高い和モダンの店舗」である。空間全体のトーンは抑え、天井・壁面はベージュの塗り壁調のクロスとし、カウンター腰や間仕切り壁はポイントとしてダークグレーのクロスとした。また、カウンター席の天板はナチュラルな木目、床は若草色の琉球畳とし、ゆっくりとした和の空間で食事を楽しめるようにデザインした。

そして、柱や梁、建具など随所に、アクセントとして濃い木目を使用し、照明を全て電球色のダウンライトで計画した。そうすることにより、温かい光環境と柱や梁、開口部などを通じての柔らかい陰影を演出し、品のある格式の高い空間となった。

 

客席は入口で履物を脱ぎ、上がると掘りごたつのテーブル席が2つ、奥に5席のカウンターとなっている。また、テーブル席からカウンター席を仕切る壁には、プライベート感を保ちつつ圧迫感のないよう壁面下部にスリットの開口を2箇所設けている。

 

新装開店から5年が経過しようとしている現在、「飯処 角と」は路地裏の隠れた名店として福岡の多くの皆様に知られるようになった。その背景には角戸氏が浪速の割烹店と博多での修行経験を生かし、この道21年の技で個性あふれる料理を供し続けているからだと思う。また、毎日100種類程の料理を提供するため、毎朝自分自身の目で新鮮で良質な食材を見定め仕入れをおこなって、最高の料理を提供し、和紙に収まりきれないほどの品書きを毎日手書きでしたためるという素晴らしいおもてなしの心構えが、更なる反響をもたらしている。

 

開店して2年ほどで「ミシュランガイド福岡・佐賀 2014特別版」のビブグルマンに認定され、様々なグルメ雑誌やマスコミにも取り上げられるほどの名店となったのは角戸氏のこれまでの知識と経験で得た凄腕の職人技とおもてなしの精神であることに違いない。

 

店舗デザイナーとして、立地や広告などの営業ツールにたよることなく、己の腕一本でここまで人々を魅了して有名店となった「飯処 角と」に、心より敬意を払い、これからもファンの1人として応援し続けようと思う。